女形の品格と色気を探求せよ①はじめに
女の色気と品を出すためには?といったテーマのコラムを読んでいると、結構な確率で「歌舞伎の女形をお手本にしましょう〜」みたいな内容に出くわします。それらの記事にはたいていこんなことが書かれています。「女形は男性が女性を演じる。彼らは女性の所作を研究しつくしているので、普通の女性よりも女らしい立ち居振る舞いができる」。
言うまでもなく、この記事を読もうと思った人にとって必要な情報は「具体的にどうすれば『女形のような』色気と品が身に付くのか」ということです。けれど多くの記事はこの後にこう続きます。「所作はゆっくりと。指先まで気を配りましょう。流し目をするのはいかが?流し目の仕方は〜〜」。
品良く見せたいと思う女性なら、所作をゆっくりすること(動作に余裕を持つこと)、指先まで気を使うことなんて、すぐ思いつくでしょうよ。コラムを読むまでもないはずです。
そしてその次。やっかいなのは「流し目」です。流し目を極めた人の視線というのが、尋常じゃない威力を発揮するのは事実。「流し目の一本釣り」という言葉があるくらいです。しかし、「魅力的な流し目」ってめっちゃムズイと私は思います。付け焼き刃な知識と安直な振る舞いで流し目を試みると、大やけどをする可能性が高い。なぜか。
昭和17年に発行され、当時大ヒットを飛ばした書物「日本の藝談」にはこんなことが書いてあります。
“踊りと芝居はすべて手に始まって足がきまり、腰が据わってから肩がものを言い始め、やがては眼が使えるようになる。”
つまり、役者でさえ眼が武器になるのは最後ってことです。もちろん「眼(視線の配り方)」の才能のある人は別ですよ。なんの訓練をせずとも、魅力的な流し目が無意識的に出来る人はいるでしょう。でもだいたいは失敗に終わります。
だから、色っぽく見せようとして流し目連発するのって超危険。「なんかヤベエやつ」と思われかねません。
さて、私は「日本の藝談」の話がしたいのです。この本は、当時(昭和初期)の新聞記者・平山蘆江氏が、役者の心得を書いた本なのですが、 なかなか興味深い内容が書かれているのです。「役者としての所作のポイント」が主観的な文章や抽象的な文章では決して書かれていない。手の置き方、歩き方、視線の配り方などが具体的な仕草の方法として丹念に書かれています。伝説のタカラジェンヌ・春日野八千代がかつて、この本を写して研究していたというのを知り、私も読んでみたわけなのですが、「これ、役者だけじゃなくて、一般人でも応用できるかもしれないな」と思いました。
そこで、この「日本の藝談」の中から、女形の仕草について書かれた項目だけに注目し、抜粋・まとめてみようと思います。何十年も前に書かれている本ですから、今となってはもう使い物にならない所作の作法もあるかも知れませんが、少なくとも女形の色気と品格を身に付けたい女性にとっては、「所作はゆっくりと」「たおやかさを意識して」なんていう超・抽象的なアドバイスよりはだいぶ参考になるものだと思います。 私が実践できるかはさておき。