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とりどり.com

宝塚や本、映画、旅行のことなど。

スカートに感情を乗せる星奈優里

宝塚

宝塚には娘役芸というものがある。
男役と並ぶときに膝を折る、ボリュームのあるスカートにつまずかないよう裾を操作する、横顔を美しく見せるために首筋を浮き出させる、リフトは相手役の負担をかけないように軽く乗る。
私の把握しているものなど、きっと知れているだろう。気づいていない「娘役芸」は恐らくたくさんあるはずだ。
娘役は所作に美しさが求められる。歌舞伎や文楽のような形式美が求められる。
私は娘役芸をさりげなく、こちらが気づかないレベルでさっとこなしている人を見ると、すごいなぁと感動してしまう。

 

花組で仮面のロマネスクが再演されることが決まった。
柴田侑宏ラブな私にとっては近年の柴田アゲは本当に嬉しい出来事だ。
さっそく過去二作品を復習することにした。

高嶺ふぶきのスケコマシなくせに妙な実直さがあるヴァルモン
大空祐飛の狙った獲物は逃さない蛇系ヴァルモン

花總まり姫川亜弓系メルトゥイユ侯爵夫人
野々すみ花北島マヤ系メルトゥイユ侯爵夫人
どちらも好きだ。

(ただ宙組の公演はちょっと説明過多すぎるので、前の演出に戻してほしい)

けれど一番惹きつけられたのは、雪組公演でトゥールベル夫人を演じた星奈優里だ。

星奈優里は76期生。この期は風花舞純名里沙月影瞳と娘役トップを多く輩出している。星奈は星組から雪組へ組み替えしたあと星組に戻り1997年に娘役トップに就任。2001年に退団した。
風花舞と同じく踊りの名手として知られるが、星奈は娘役芸にとくに秀でていた。レビューでの美しいスカートさばきには、たびたびうっとりさせていただいたものです。
芝居にもその技術は存分に発揮された。特に「仮面のロマネスク」におけるトゥールベル夫人の「自分の正義と欲望の狭間でよろめきまくる」姿は圧巻だった。

ヴァルモンがトゥールベル夫人に迫る3場、トゥールベル夫人が彼に捨てられる1場は、トゥールベル夫人を見逃さないように視神経のすべてを彼女に注いでいたといってもいい。

注目はスカートのたくし上げ方と軽やかな身のこなしだ。
例えばヴァルモンと最後の面会を宣言した後。
ヴァルモンから逃げる際、本心では彼に堕ちたいと思っているため、スカートを後ろへ靡かせている。スカートの後ろをややひっぱって走ることで、裾が身体よりも大きく後退し、ヴァルモンへの気持ちの動線となり、彼女の未練は見事に表現される。

ヴァルモンに捨てられるシーンは白いドレスを左右に豊かに揺らせながら、捨てられた哀しみと、自分への絶望と、夫への裏切りの後悔をスカートにたっぷり乗せて演じている。特徴としては、感情的になるときはドレスに身体が埋もれるほどスカートを広げることと、よろめくとき、倒れる側(重心がかかる方)の裾を腰上までたくし上げることだ。こうすることで倒れるときにスカートが膨らむので、より立体的な感情が出せ、奥行きのある哀しみになる。
所作の緩急のつけ方も美しく、見とれてしまう。
彼女のよろめきについては1/60のシャッタースピードで各シーンを切り取ったとしても、すべての身のこなしが美しい絵として残るんじゃないかと思えるほど。
一昔前の少女漫画によく見られた「薔薇が背景に飛んでる」キメのシーンに見えるのだ。

何度観ても飽きることのない魅力的で放っておけない女性像を彼女は見事に演じきった。

私の心に深く残る、理想のトゥールベル夫人だった。