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筆箱採集帳/ブング・ジャム

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私は昔から雑誌のカバンの中身特集やお家訪問特集、本棚特集といった「他人の生活の中身を見せてもらう」企画にしこたま弱い。
そして文房具が大好きだ。

だから4年前にこの本を見つけたとき、かなり鼻息が荒かった。

小学校と中学校では学校の購買部(クラスで1人、必ずしなくてはいけなかった)に自ら立候補し、好みの消しゴムや鉛筆、ノート、えんぴつキャップなどを入荷しまくり、お客様第一号になった。小学校の近くにある文具屋「銀座堂」にあったコーラの匂いがする練り消しを手に入れたときは、一生大事にすると胸に誓ったものだ。(現在は紛失している)。小学校低学年の頃、マイ・スイート・キャラクターはキティちゃんでもマイメロディでも、キキララでもなく、ミッキーやプーさんでもなく、うちのタマ知りませんかでもなく、ポチャッコだった。だれがなんといおうとポチャッコを愛していた。

ゆえに筆箱も、幼稚園卒園後すぐに夢叶って手に入れることができた、磁石の力で両面がドアみたい開く、下には物差しを入れておくかちっとしたやつはさっさと用済みにして、安物のポチャッコの筆箱を大切に使っていた。
 しかし、ポチャッコと私の蜜月は2年足らずで終了する。360度どこから見てもかわいいポムポムプリンと出逢ってしまったからだ。私は、あんなに大好きだったポチャッコの筆箱を棚の奥へ放り込み、そこから長くポムポムポリングッズを買い漁った。えんぴつ、消しゴム、キャップすべてをポムポムプリンにし、自分のことを「プリンって呼んでね」という、今考えると恐ろしい行動を取っていた。

中学生に突入すると、カラーペン、ラメペンに目覚める。いかに多くの色を集めるかに没頭し、筆箱をパンパンに膨らませた。もちろん、この頃は将来への夢もパンパンに膨らんでいた。0.3などペン先が細いペンこそ正義だと思い、疑わなかった。書きにくいなぁとも思ったけれど、小さくかわいい字を書くために必要なことだ。若者特有のやや斜体がかかった字をマスターするためには仕方なかったといえる。

高校に入るとドクタークリップの素晴らしさに魅了される。1本あれば充分なのに、限定色があると聞くや飛びついたせいで4本は筆箱に入れていた。ペン回しの技をマスターするために時間を費やしたので、授業中何度シャープペンシルを飛ばして怒られたことか。周りにごめんなさいと言いたいです。

大学生になると、お気に入りの筆箱を見つけた。布地で柔らかく、外には猪熊弦一郎が描くような猫のイラストが1つ。裏地は赤のチェックだ。中に入れるものはサラサのボールペン(赤・黒)とUSBメモリだけになっていた。この筆箱は黄ばんでぼろぼろになるまで使った。

 

そして社会人になった今、私はあれだけ愛していた筆箱を1つも持っていない。ボールペンは必要だが、カバンの小さなポケットにぶち込んでいる。無くなる事も多いけれど、新しいのを買えばいいやと思い、大して気にしていない。あれほど大事だった文房具たちが、いつの間にか宝物ではなくなっていた。

 

筆箱採集帳には、小学生や思春期の若者、サラリーマン、ナース、芸大生、建築家など50人以上の筆箱およびその中身が披露されている。持ち主の好みが反映された十人十色という言葉がふさわしい中身にうっとりするだろう。そして、私は安心する。

いつの時代も、小学生女子の筆箱はえんぴつキャップに気合いが入っているし、中学生女子はカラーペン集めに精を出している。男子学生は相変わらずボコボコの缶ペンを使っている。

 そして、自分が今後送ることがない人生を歩んでいる人の筆箱の中には、それぞれにとって必要なものや性格が出るものが収められている。あめ玉や、5円玉や、おびただしい量の色えんぴつや、クシ、日焼け止め、万年筆。何種類ものカッターに工具。

 

筆箱は宇宙だ。そして、持ち主の人生でもある。